登録販売者試験 #84 漢方 桂枝加朮附湯
1. 定義と処方構成
桂枝加朮附湯は、江戸期に日本で整理・発展した処方とされます。
桂枝湯をベースに、冷えと水滞(むくみ)を伴う痛みに対応できるよう加味された処方です。
処方構成(7味)
桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草(桂枝湯)
+ 白朮又は蒼朮(利水・健脾)
+ 附子(温裏・散寒)
→ 桂枝湯をベースに、白朮で水湿をさばき、附子で陽気を補う加味方。
桂枝加朮附湯は、桂枝湯に白朮と附子を加えた日本独自の加味方で、
江戸時代に日本でまとめられた処方です。
“冷え+水滞(むくみ)+関節痛・筋肉痛” を伴う病態を改善する

桂枝加朮附湯とは
桂枝加朮附湯は、冷えや水滞(むくみ・関節の重だるさ)を背景にした関節痛・神経痛・筋肉痛に用いられる漢方薬です。とくに
- 冷えると悪化する
- 天気で痛みが変動する
- 朝のこわばりが強い
- じっとしていると痛む
といった特徴がある人に向きます。
「18番」として医療用・一般用で流通しており、一般用では第二類医薬品に分類されます。
2. 適応症・効能(添付文書ベース)
効能・効果
➤体力虚弱で、汗が出、手足が冷えてこわばり、ときに尿量が少ないものの次の諸症:関節痛、神経痛
特に「冷え × 痛み × 水の滞り」による痛みを目標とします。
市販薬では「冷えを伴う関節痛」への訴求が多く、湿布売場・関節薬売場で相談される事が多い症状の訴え
汗が出るって何か関係あるの?
:汗の出る所に穴が空いていて、そこには穴を衛る門番がいると想像して下さい。この門が衛られていれば汗は勝手に出ないんです。
「汗がじんわり出る」= 衛気(えき:門を守るエネルギー)が弱く、腠理(そうり:体表のすき間=汗の“出入り”を調整する場所)が固摂(閉じておくべき時に閉じる能力)ができない状態(=表がゆるい)
※“汗そのものが悪い”というより、表(体表のバリア)がゆるんで外邪を受けやすい状態を示すサイン、と考えます。
3.日本漢方の病理観
1)桂枝湯系の本質:営衛の不和
桂枝湯は「営(血と栄養)と衛(体表の防衛)」の調整が目的で、
- こわばり
- 発汗異常
- 体表の巡りの悪さ
を整えます。
関節・筋のこわばりの“土台”をゆるめる役割。
(2)水気(すいき)の停滞が加わる → 白朮の働き
白朮を加える理由は、
- むくみ
- 関節の重だるさ
- 動き始めが痛い
などの “水の偏在” にあります。
水が偏ると関節や四肢の可動が悪くなると考えられています。
3)寒が痛みを固める → 附子の働き
附子は 「裏の寒(内側の冷え)」 を温め、
- 冷えると痛む
- 朝がつらい
- 温めると楽
といった寒による筋骨の固まりをほどく役割を担います。
基本法則 「寒は痛みをもたらす」 に対し、
附子で寒を散らし、痛みを改善します。
→ つまり、桂枝加朮附湯の病態モデルはこうなる
- 桂枝湯で “こわばり” と “体表の巡り” を調整
- 白朮で “水気の滞り” を除く
- 附子で “寒による痛み・こわばり” を温めて散らす
= 冷えがあり、水が滞り、関節や筋の動きが悪くなるタイプ
4. 現代薬理から見た作用(日本漢方での臨床的解釈)
◉ 鎮痛・抗炎症作用
- 附子由来成分(アコニチン類)が神経痛様症状に作用
- 附子は加工(炮附子など)され毒性低減されているが、しびれ・動悸などには注意
※安全域が狭いので素人使用は注意 - 桂皮・生姜などに、抗炎症関連(PGE₂など)への作用が報告されています。
◉ 末梢循環改善
- 生姜の温熱作用
- 附子の血流改善作用
→ 冷えに伴う痛み・こわばりの改善に寄与
◉ 水分代謝改善
- 白朮の利尿・健胃作用
→ むくみ・重だるさの改善
※芍薬甘草湯ほどの筋スパズム抑制作用(Ca²⁺流入抑制)の明確なデータはありません。
5.臨床エビデンス(日本での利用経験が中心)
桂枝加朮附湯には、冷え・水滞・こわばりがある関節痛・神経痛・変形性関節症で「改善例」がある — ただし根拠は 症例報告・小規模観察が中心。効果のあった症例報告もあれば、プラセボとの有意差のない研究結果もありました。(証の見極めの問題??)
- 「桂枝加朮附湯が奏功したと考えられたとする症例の検討」(J-stage 論文)
- 基礎研究 — 関節炎改善作用およびヒアルロン酸産生促進(関節軟骨保護の可能性)
6. 安全性・禁忌・注意点
附子製剤に共通する注意点(重要)
- 不整脈・しびれ・舌のしびれは中毒症状の初期
- 腎疾患・心疾患・妊婦は服用に注意(特に附子は要注意)
- 熱のある痛みには不向き(悪化の懸念)
甘草による偽アルドステロン症
- 長期・大量服用で低カリウム血症のリスク
- 高血圧・腎疾患・心不全の人は必ず医師・薬剤師に相談
体質との相性
- 明らかな冷えがない人、熱感が強い人には不向き(悪化しやすい)
- むくみやすい人にも適するが、電解質異常のある人は要注意
用法用量
- 医療用ツムラ:1日7.5 g を2–3回
- 一般用:添付文書の分量を遵守
- 附子が含まれるため、自己判断での長期連用は避ける
7. まとめ — 向いている人/注意すべき人
向いている人
- 冷えると痛みが強くなる
- 雨の日・湿気で悪化する関節痛
- 朝のこわばりや重だるさ
- 足腰が冷え、むくみやすい
- 動かし始めが痛い(湿痺の典型)
注意すべき人
- 熱感を伴う関節炎(赤い・熱い・腫れる)
- 高血圧・心疾患・腎疾患(甘草・附子の影響)
- 妊娠・授乳中
- 長期連用を考えている人(必ず医療者に相談)
まとめ
桂枝加朮附湯は、
「冷え × 水滞 × こわばりによる痛み」に用いる代表的な温経・利湿方です。
ただし附子を含むため安全性のチェックは必須。熱のある痛みや、持病のある人では慎重に用いる必要があります。
【参考文献】
- ツムラ桂枝湯、添付文書
- ツムラ桂枝加朮附湯、添付文書
- クラシエ桂枝加苓附湯、添付文書
- PMDA 医薬品医療機器総合機構
- 慢性疼痛治療ガイドライン
- PubMed 桂枝加朮附湯
- 桂枝加朮附湯が奏功したと考えられた症例の検討(J-stage 論文)
- 桂枝加苓朮附湯の関節炎改善作用とその作用機序に関する研究
初稿:2026年2月10日

